結晶性樹脂と非晶性樹脂の違い 3Dプリンタの観点から

そもそも樹脂の結晶って何?

樹脂は分子がとても長くつながった高分子の鎖でできています。内部構造を見ると、分子の集まり方が密な部分と疎な部分があります。おおざっぱに言うと、密な部分が結晶、疎な部分が非結晶です。結晶部分は分子が折りたたまれる構造になっていて、規則的に分子が配列しているので密度が高くなっています。非結晶部分は分子がだらっと伸びているだけで寄り集まっているわけではないので、密度は高くありません。

 

樹脂の結晶と非結晶のイメージをインスタントラーメンで表現してみました。
麺が高分子の鎖を表しています。左が樹脂に結晶がある場合です(結晶性樹脂)。くしゃくしゃの部分に一部赤丸で囲った、高分子の鎖が折り畳まれた部分があります。この部分が結晶になります。右が樹脂に結晶がない場合です(非結晶樹脂)。全く規則性がなく、高分子が折り畳まれているところがありません。全部くしゃくしゃの状態です。

 

実際に樹脂の結晶はどんな形をしているのかというと、下の写真のような感じです。球晶と呼ばれます。中心から折りたたまれた高分子が放射状に伸びた形になっています。(写真は偏光顕微鏡で見たもので、実際にはこんな色がついているわけではありません)

http://apchem2.kanagawa-u.ac.jp/ikeharalab/THEME/ips.html

 

結晶は複数の起点から高分子が折りたたまれて成長します。成長していく過程で結晶どうしがぶつかったり、折りたたみきれなかったりして隙間ができます。すべての高分子を折りたたむことはできないため、かならず伸びた状態で残る部分がでてきます。このため結晶化度100%の結晶性樹脂は存在しません。結晶化度が高い、高密度PEでも結晶化度は80%程度です。結晶性樹脂は結晶と非結晶の部分が存在し、非晶性樹脂は非結晶だけが存在する構造になっています。

 

結晶性樹脂と非晶性樹脂は何が違うのか

この結晶と非結晶は樹脂の物性を考える上でとても基本的な要素です。

 

結晶性樹脂

結晶部が密になっているため、強靭さがあります。水分や薬品などが表面からやってきても、結晶部分を迂回しないと内部に浸透していきません。そのため吸水率が低く耐薬品性に優れるものが多いです。成型面では溶融状態から冷えて固体になるときに結晶ができ、高分子が折りたたまれて縮むので成形収縮は大きくなります。成型品の寸法誤差は大きくなる方向になります。大物・薄物だと反りやすいです。光学的には結晶が光を散乱させるため、白く不透明なものが多いです。

 

非晶性樹脂

非晶性樹脂は基本は疎な構造なので、結晶性樹脂に比べ弾性率が低いものが多いです。水分や薬品などの進行を止めるものがないので、内部まで浸透します。そのため吸水率が高く、耐薬品性に劣るものが多いです。成型面では冷えて固まるときに結晶ができないので収縮が小さく、寸法誤差が小さくなる方向になります。筐体などの大物や、薄物などは多くが非晶性樹脂で成型されています。光を散乱させる結晶がないので透明なものが多いです。

 

3Dプリンタフィラメント用樹脂の分類

3Dプリンタのフィラメントで使われる樹脂を結晶性樹脂と非晶性樹脂に分類してみました。

PLA 結晶性樹脂(ただし、通常造形後は非晶状態)
ABS 非晶性樹脂
PETG 非晶性樹脂
HIPS 非晶性樹脂
PC 非晶性樹脂
PA 結晶性樹脂(ただし、フィラー添加品が多い)
PP 結晶性樹脂(ただし、フィラー添加品が多い)

 

中には結晶性樹脂もありますが、多くが非晶性樹脂か、造形後に非晶となる樹脂です。PLAは分類としては結晶性樹脂ですが、結晶化が遅いため造形では通常非晶状態となります。FDM式の3Dプリンタでは成形収縮が大きいと反りかえり、ベッド剥がれなどの不具合が起きやすくなります。そのため一般的には非晶性樹脂が使用されていることが多いです。

 

PA、PPは結晶性樹脂です。そのままフィラメント用として使うと成形収縮が大きいので、ガラス繊維、炭素繊維などのフィラーを添加して収縮を下げているものが多いようです。